大阪地方裁判所 昭和34年(わ)1511号 判決 1960年3月03日
被告人 高井貫一郎
大一三・三・六生 無職
主文
被告人高井貫一郎を懲役一年及び罰金八万円に処する。
ただし、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
被告人が右罰金を完納できないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人高井貫一郎は
一、山本達と共謀の上昭和三十三年七月十五日頃大阪市浪速区元町一丁目七百四十六番地旭ガラス工芸社において中岡貞子との間に同女を売春婦として雇い入れ、同女に遊客を取らせて売春をさせその対償を一定の割合で分配取得する旨を約し以て同女に売春をさせることを内容とする契約をし
二、相被告人松本喜八、山本達と共謀の上、別紙住込一覧表甲記載のとおり、上田咲江外五名を同表記載の各期間被告人松本が借受けて占有していた大阪市浪速区元町一丁目七百四十六番地谷山アパート、及び山本達が借受けて占有していた同番地旭ガラス工芸社にそれぞれ居住させ、引き続いて相被告人松本喜八と共謀の上別紙住込み一覧表乙記載のとおり上田咲江外一名を同表記載の各期間前記谷山アパート又は昭和三十四年五月から松本喜八が借受けて占有するようになつた旭ガラス工芸社に居住させた上同女等に多数の遊客を相手として附近旅館等で売春をさせその対償の一部を取得し以て婦女に売春をさせることを業とした
ものである。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
法律に照らすと被告人の判示所為中判示一の所為は売春防止法第十条第一項に、判示二の所為は同法第十二条(単純な同条違反の一罪を構成するものと認める)に各該当するので、判示一の罪については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文、第十条により重い判示二の罪の懲役刑について同法第四十七条但書、の制限に従つて法定の加重を施した刑期及び罰金額の範囲内で、被告人を懲役一年及び罰金八万円に処し、情状に鑑み、同法第二十五条により本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、被告人が右罰金を完納できないときは同法第十八条により金二百円を一日と換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して全部被告人の負担とする。
(判示二の罪数に関する当裁判所の見解)
売春防止法第十二条違反は婦女に売春をさせることを業とすることによつて成立する。業とすることを要するから、はじめから構成要件上数個の行為を予想しており、婦女に売春をさせる行為を反覆しても一回的に包括して評価される。しかしながら、婦女に売春をさせる行為の反覆であつても、別個の意思決定に基き、別個の場所で、別個の婦女をして売春をさせる行為を行つた場合には、それ以前の行為とは別個にこれを評価し数罪と考えなければならないであろう(参考判例、昭和三十年十月十八日第三小法廷決定、集、九巻二二四五頁)。すなわち、職業犯においても犯人の主観的意思と客観的事実とを綜合的に考察して別個の評価を必要とする場合には併合罪とすべきである。ところで職業犯における共犯者の加入又は脱落という事実が、一罪か数罪かの判断に重要な関係を持つことは疑ないが、必ずしも決定的要素であるとは思われない。共犯者の加入、脱落のほか先にあげた主観、客観の両側面を同時に考察すべきである。検察官は、被告人が松本喜八及び山本達と共謀の上甲表記載のとおり上田咲江外五名を谷山アパート外一ヶ所に居住させて売春させることを反覆した行為と、松本喜八と共謀の上乙表記載のとおり同女外一名を同場所に居住させて売春させることを反覆した行為とは、後の行為に共犯者であつた山本達が脱落しているので併合罪であると主張する。しかしながら前掲各証拠を綜合すると、被告人は昭和三十三年九月上旬頃より松本喜八、山本達の両名を親方として、同人等が雇い入れた売春婦を毎夜旭ガラス工芸社二階に集合させて客待をさせ、売春婦をよこして慾しいという要求があれば、旅館等に売春婦を送り出して売春させ、その対償を受け取つて親方、ポン引、売春婦の間に分配をする、いわゆる帳場の仕事を担当して来たのであるが、昭和三十四年四月末頃山本達が手を引くこととなり、その後も松本喜八を親方として前同様帳場の仕事を担当し、従前通り旭ガラス工芸社二階を客待の場所とし、松本喜八が雇い入れた婦女は勿論、山本達が雇い入れた婦女もそのまま使用して売春を行なわせていた事実を認めるに足るのである。被告人と松本喜八は山本達が手を引いたことによつて別個の犯罪意思を生じたものとも認められないし、行為の態様においても何等変化が認められないのであるから共犯者が脱落したからといつて、それ以後の行為を別個に評価しなければならないという事情は存在しないといわなければならない。
従つて当裁判所は判示のとおり包括して一罪と認定したものである。
よつて主文のとおり判決する
(裁判官 松浦秀寿)
住込一覧表
甲
乙
番号
氏名
居住場所
居住期間
氏名
居住場所
居住期間
1
上田咲江
谷山アパート
自昭和33・9・初
至〃 34・4・30頃
同上
谷山アパート
自昭和34・5・1
至〃 〃・5・10頃
2
仲山郁代
右同
自昭和33・9・初
至〃 33・11・8頃
都外川則子
旭ガラス工芸社
自昭和34・5・5
至〃 〃・5・13頃
3
五十嵐勝代
旭ガラス工芸社
自昭和33・9・13
至〃 33・9・15頃
右同
谷山アパート
自昭和33・9・16
至〃 34・2・27頃
4
加藤昌子
旭ガラス工芸社
自昭和33・12・21
至〃 34・4・30頃
5
植松美佐子
右同
自〃 34・1・5
至〃 〃・4・30頃
6
金正子
右同
自〃 34・2・25
至〃 〃・4・30頃